ホンダの「ホンダジェット」が快挙です。
小型ジェット機カテゴリーで、2017年のデリバリー数が43機と世界一になりました。セスナ「サイテーションM2」39機を抑えての首位です。
※米ノースカロライナ州グリーンズボロにあるホンダジェットの工場
もとより航空機は、自動車の巨大ビジネスと比較して規模は小さい。世界シェアトップといっても、「ホンダジェット」は1機約4憶8000万円。43機で、単純計算で売上高は206憶円程度です。ホンダの2016年度の四輪の売上高が約10兆2566億円、二輪が約1兆7161億円であることを考えれば、言葉は悪いですが、タカが知れているかも知れません。
しかしながら、「ホンダジェット」の価値は、とてつもなく大きいのです。
なぜか。そのポイントは、ブランド戦略にあります。ホンダは、長年、「F1(フォーミュラ・ワン)」によって世界中でブランド力を高めてきました。考えてみてください。F1活動は純粋なビジネス事業ではありません。もっといえば、金儲けではありませんよね。ホンダジェットも同じです。
もともとホンダが航空機に期待した役割は、収益貢献よりむしろブランド力アップだったんです。現に、1986年に航空機開発を指示した、ホンダジェットの“生みの親”のホンダ元社長の川本信彦さんは、ホンダの航空機の事業化を「考えていなかった」と語っています。
「ホンダにとって飛行機は、自動車会社という親ロケットにくっついた子ロケットです。先鋭的でハイテクのイメージを備えた子ロケット。これがあれば親のビジネスを加速させてくれる。だから、子ロケットでカネを儲けようとは考えていなかった」というんです。
ホンダジェットは、航空史上でも特異な飛行機です。まず、タブーといわれた、エンジンを主翼上面に配置した形で空力性能などを高めている。それらによって、設計者でホンダジェットの開発責任者の藤野道格さんは、2012年に航空業界のノーベル賞ともいわれる権威ある賞、AIAA(アメリカ航空宇宙学会)の「エアクラフト・デザイン・アワード」を受賞しました。つまり、航空機の聖地の米国の航空学会からも高く評価される飛行機なのです。燃費や最高速度、室内空間の広さなどもカテゴリートップです。
さらに、ホンダジェットのエンジンは、ホンダとGEとの共同開発です。航空機業界では、エンジンと機体は別々のメーカーが手掛けるのが一般的で、その両方を手掛けるのは、ホンダだけなのです。加えて、航空エンジン界の巨人GEが、自動車メーカーのホンダと組むということは、奇跡といっていいほどまれなケースです。それは、もともとのホンダの小型エンジンがそれほど優れていたことを意味するんですね。
※「HF120」
それから、自動車メーカーが航空機をつくったことも稀有のケースです。例えば、中島飛行機がスバルとなったように、航空機メーカーが自動車をつくった例はある。しかし、現時点で、自動車メーカーが民間機のメーカーを兼ねる例は、世界にもホンダのほかにありません。
というのは、航空機は、自動車とはけた違いの安全性が求められる。同じ乗り物といっても、自動車メーカーが、より難易度の高い航空機をつくることは、並大抵のことではないのです。
※ホンダジェットに搭載されているエンジン「HF120」の組み立て
もともとカネ儲けを期待されていなかったホンダジェットですが、いまや、世界シェアトップですから、立派なものです。もちろん、収益貢献するには20年~30年かかるといわれていますが、いずれリターンが実現する日はくるでしょう。
そして、もっとも重要なのは、なぜホンダは、他社がやらないことを手掛け、そして、30年も粘り強く開発を続け、小型ジェット機をつくることができたのか、ということです。規模でいえばトヨタやフォルクスワーゲンの半分ほどに過ぎないホンダが、なぜできたのか。ホンダという企業の“不思議力”です。実際、1972年には、当時のビッグスリーが諦めたマスキー法をクリアできるエンジン「CVCCエンジン」を、世界で初めて開発しています
詳細は、昨年秋に上梓した拙著『技術屋の王国 ホンダの不思議力』(東洋経済新報社)に記しました。この機会に、ぜひご一読いただきたいと思います。
最後に、いま、自動車産業は、自動運転や電動化だけでなく、シェア化など、産業構造そのものが転換する大変革の時代を迎えています。新時代に対応したビジネスモデルを構築するにあたり、自動車メーカーは、製造業からサービス業へという業態の変化を含め、必死に生き残り策を模索している。
そのなかで、ホンダが、自動車メーカーでありながら、航空機市場でも「世界一」を獲得したということは、大きな意味を持つと思います。
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※外部リンク
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