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経済ジャーナリスト 片山修 | Osamu Katayama Official Website

片山修のずたぶくろⅡ

経済ジャーナリスト 片山修が、
日々目にする種々雑多なメディアのなかから、
気になる話題をピックアップしてコメントします。

東芝には、なお隠されたリスクがある

東芝は、原子力事業の巨額減損をしましたが、ほかの事業においても、じつは大きなリスクがいくつか指摘されているんですね。

その一つが、2011年に23億ドル(当時約1800億円)で買収したスイスのランディス・ギア(LG)です。スマートメーターの世界シェア最大手です。

買収を決断したのは、09年から13年まで東芝社長を務めた佐々木則夫さんです。私は、社長時代の佐々木さんに、3度、インタビューしています。当時、佐々木さんや東芝の関係者から、LGにつて、次のような説明を受けました――。

LGは送電に強く、配電自動化やメーター管理など、東芝が海外にはもっていなかった分野をもつ。ワールドワイドかつ地域密着で事業を展開し、30か国以上に拠点を構え、電力会社、配電会社などを中心に約8000社の顧客を抱える、したがって東芝と優れた補完関係をつくれる――というんですね。

佐々木さんは、インタビューで次のように語りました。
「インフラ系のビジネスは、ゼロから始めたら時間がかかるし、市場で認知されて、お客さまを獲得するまでが難しい。だから、すでに市場にプレゼンスをもつ会社を買うわけです。LGの買収は、技術を買うだけではありません。30カ国の市場とお客さまも一緒に買ってこられると認識しています」

東京電力は、近年、電力計を「スマートメーター」に切り替えています。
スマートメーターは、一時期盛んにいわれた「スマートグリッド(次世代電力網)」の実現に欠かせません。設置すれば、毎月の検針業務を自動化できるほか、住宅用エネルギーマネジメントシステムを通じて、各家庭の電気使用状況を見える化することができます。電気料金メニューを多様化したり、省エネ効果も期待される。その数、管内2700万世帯にのぼるといわれます。大変なビジネスチャンスです。東芝にとって、LGの買収は“武器”になるハズでした。

ところが、フタを開けてみると、このLGのメーターはさんざんでした。

東芝が東京電力から受注した通信システム開発において、通信の規格が合わず、“スマートメーター”に技術を載せることができなかったといわれています。「うどんの丼にスパゲッティを入れるようなもの」と聞きました。通信規格が合わないなどということは、単純な話ですよね。少し調べれば、わかったハズでした。どこまでずさんなのか、信じられない話ですよね。

じつは当時、佐々木さんは、10年に設立され、当時400社以上が参加していた「スマート・コミュニティ・アライアンス(JSCA)」の会長を務め、日本のスマートシティ事業の旗振り役だった。佐々木さんには、この分野は東芝がリードしなければならない、という気負いがあったのは間違いない。

結果として、派手にぶち上げ、社内外から期待を集めた事業が不発だった。これは、東芝の経営層からのプレッシャーである“チャレンジ”の一因となり、スマートメーター用通信システムは255億円の水増しが、後に明らかになりました。

ところが、そのLGの減損をしていないのです。

今月14日の記者会見の席上、記者の質問に答えて、取締役代表執行役専務の平田政善さんは、次のように答えました。
「ランディス・ギアはまだのれんを残しています。のれんの減損テストはフォースクオーターで行うことになっています。原子力事業の減損テストを行う上で、ランディス・ギアも簡易的なテストをし、いまのところ減損の兆候はないと判断しています」

一部のアナリストやマスコミは、LGについて、1000数百億の減損リスクを指摘しています。果たして、減損する必要は、本当にないのでしょうか。

確かなのは、“闇”がある限り、東芝再建の道筋は見えてこないということです。

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